菖蒲はショウブで元祖アヤメ

端午の節句の「菖蒲切り」

桃の節句の「雛そば」にあたる、端午の節句のそばとして「菖蒲切り」というものがあったというお話は昨年取り上げた 5月の節分と節句 | そば処霧立亭 の中でご紹介しました。
「菖蒲切り」の箇所のみ再掲します。

また『小堀屋秘伝書』(享和三年・1803)には、季節の品書きとして「五月菖蒲(あやめ)わり粉(小麦粉)壱升に、せうぶ細かにきり入れもむべし」と、菖蒲麺を挙げている。

菖蒲の葉を刻むか、根をおろして小麦粉に加えたもので、そば粉を使えば「菖蒲切り」となります。

2012年5月5日は蕎麦で祝う【端午そば】
http://www.soba-udongyoukai.com/info/2012/2012_0420_tango_soba.html

ただ、この「菖蒲切り」、へぇ!それは風流だ。試してみよう!などと思って適当な「菖蒲」の葉や根をそばに練り込んでしまうとエライ目にあうので注意が必要です。

端午の節句のモチーフとしてもよく見る「菖蒲(アヤメ)」の花。

実は有毒。

毒性

成分 – イリジェニン、イリジン、テクトリジン
部位 – 全草、根茎、樹液
症状 – 皮膚炎、嘔吐、下痢、胃腸炎

アヤメ – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A4%E3%83%A1

そして、この花は本来「端午の節句」で用いられる「菖蒲」ではないのです。
これ、「菖蒲」の読み方が問題です。
「菖蒲(アヤメ)」と読むか「菖蒲(ショウブ)」と読むかで全く別の植物のことになってしまうのです。

毒性のあるアヤメではなく、ショウブの方は「菖蒲根」として漢方では生薬として用いられています。
とはいえ、内服では使用しないという記述も見かけました。

民間では、古来より菖蒲湯として用いられており、薬用効果を高めるために、芳香のある生の根茎や葉を大まかに刻んで布袋に入れて煮出したものが風呂に入れられる。浴用の効果は、血液循環促進、冷え性、肩こり、疲労痛に効能があるとされる。
また、乾燥した根茎を適量の水で煎じて、煮汁とともに薬草に入れられて、煎じ汁、ティンクチャーなどが食欲不振や消化不良にも用いられることもあった。
しかし、苦味芳香性の健胃薬の効果があるものの、特殊な不快味があるうえ、悪心、吐気感を催してしまうことがあるため内服には使われない。

ショウブ – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%96

なるほど、どうりで「菖蒲そば」が一般的にならなかった訳です。
爽やかな香りのするそばなら茶そばに負けず人気になって後世に残っているはずですよね;

菖蒲と菖蒲

同じ漢字で二つの読み方のある「菖蒲」。
下の写真はどちらも花です。

ゴージャスな花の方は「菖蒲(アヤメ)」、地味~な方がいわゆる端午の節句で用いられる「菖蒲(ショウブ)」です。

読み方が違うだけで別物になるというだけでもややこしいのですが、この「ショウブ」実は本来は「あやめ(あやめぐさ)」と呼ばれていたものだったのです。(この時点でもう訳が分かりません;)

わかりやすい説明があったので引用します。

「ショウブ」とは、漢字では「菖蒲」と書きますが、これは「あやめ」とも読みます。
大変ややこしい話なのですが、実は本来「あやめ(あやめぐさ)」と呼ばれていたのは本種の方で、アヤメやカキツバタ、ハナショウブ類などアヤメ科アヤメ属の植物を「あやめ」と呼ぶようになったのは、18世紀以降とされます。
過渡期にはショウブ類と区別するため、現在のアヤメ属の植物は「はなあやめ」と呼ばれていたようですが、いつの間にか「あやめ」と言えば花の美しい方ということになり、本種の方は混同を避けるためか、漢字の音読みである「しょうぶ」と呼ばれるようになったようです。
しかし植物名以外では、「あやめ」の読みは現在でも様々に残っており、端午の節句は別名「菖蒲(あやめ)の節句」とも言いますし、前述の「菖蒲酒」も「しょうぶざけ」ではなく「あやめざけ」と読むのが正確です。
その後、アヤメ属の植物の中でアヤメそのものやカキツバタと区別するため、ハナショウブ類を「ショウブに葉が似ていて美しい花が咲く植物」という意味で「はなしょうぶ」と呼ぶようになったようです。

重井薬用植物園 | おかやまの植物事典
https://www.shigei.or.jp/herbgarden/album/syoubu/album_syoubu.html

ややこしい上にショウブちゃん(元祖アヤメちゃん)、なんだか不憫!

菖蒲湯

端午の節句の行事といえば、菖蒲湯が思い浮かびます。

菖蒲湯の効果

菖蒲にはアサロンやオイゲノールという精油成分が多く含まれており、腰痛や神経痛を和らげる効果が期待できる。店頭で売られている菖蒲は葉の部分が多いが、血行促進や保湿の薬効がある精油成分は根の部分に含まれ、その効果を望む場合は漢方薬局で相談するとよい。

また、菖蒲の独特の香りにはアロマセラピー効果もあり、心身ともリラックスすることを期待できる。

菖蒲湯 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%96%E8%92%B2%E6%B9%AF#cite_note-FOOTNOTE%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B9200855-15

菖蒲(ショウブ)が入手できないからといって「菖蒲(アヤメ)」をお湯にいれても湯船の見た目がゴージャスになるだけで薬湯としての効能は一切ありませんのでご注意ください。

さらに、一般に浸透しているお湯に菖蒲の葉を浮かべたものだけではなく、本来の意味での「菖蒲湯」もあるそうなのです。

「しょうぶ湯」には実は2種類あり、普通「しょうぶ湯」というと、本種の葉のみを風呂に浮かべたものを指しますが、冬に採集した根茎部分を乾燥させたもの(菖蒲根)を砕いて、布の袋に入れたものを少し煎じて煮汁ごと風呂に入れ、薬湯とするのが本来の意味での「菖蒲湯」です。
かつては薬湯としての「菖蒲湯」をしたうえで葉も浮かべていたのかもしれませんが、年中行事(節句)としての「しょうぶ湯」は薬とするよりも、さわやかな芳香と葉のみずみずしい緑という季節感を楽しむことが主な目的のため、いつしか葉を湯に浮かべるだけに簡略化されたのかもしれません。

重井薬用植物園 | おかやまの植物事典
https://www.shigei.or.jp/herbgarden/album/syoubu/album_syoubu.html

菖蒲根を手に入れる機会があれば、ぜひ本物の「菖蒲湯」を試してみたいところです。

アロマを楽しむ菖蒲酒

菖蒲の香り利用した風習の一つに「菖蒲酒」というものがあります。
「ショウブ」の根や葉を切って浸けて作るものですが、このときの読み方は「アヤメ酒」が正解のようです。(前述の引用部分参照)
ショウブの清々しい芳香は邪気を払い心身を清めるとされており、心身のリラックス効果もあります。いわゆる「アロマセラピー」ですね。
リラックス効果のある菖蒲の香りに少量のアルコールが加われば、より効果的にリラックスできそうです。

菖蒲酒はどうやって作ると良いのでしょうか。
ちょっとググってみたら面白いコラムに出会いました。
岩手県の酒造会社さんのページなのですが、菖蒲の香り成分の化学記号を載せてそれに面白いツッコミ入れてあったり、「”最もおいしく飲める菖蒲酒”を生み出すべく、ちょっとした実験」をされていたりと、読みやすくなおかつ面白い内容になっていました。
「最もおいしく飲める菖蒲酒」が気になる方や読み物好きの方も、要チェック!です。

菖蒲の香りで厄を払おう!端午の節句のはなし | きくつかこらむ-菊の司酒造|Kikunotsukasa

今年は「”菖蒲切り”とはどんなものなんだろう」と思ったことをきっかけに、菖蒲について少し調べてみました。
これまでも「菖蒲」がなぜ「ショウブ」と読んだり「アヤメ」と読んだりするのか不思議に思ったことはありながら、とくに調べてみる機会もないまま過ごしていましたが、今回初めてその答えを得ることができてスッキリしました。

端午の節句は「こどもの日」ではありますが、菖蒲酒などは大人だけができる邪気払いです。
食前酒に菖蒲酒、お食事には厄を断ち切る行事食の筆頭「そば」をご用意いただいて「大人の端午の節句」を堪能してみるのも良さそうです♪