秋土用はなぜ辰の日?

秋土用のおさらい

2022年の10月に「土用そば」をご紹介する際にも秋土用について触れ、翌年2023年の4月には「春土用」もご紹介しましたが、改めて簡単におさらいしておきます。

土用とは、1年に4回訪れる「節分を最終日とする18日間」のことです。そのうち、秋土用は立冬の直前の18日間になります。2024年の立冬は11月7日なので、その前の10月20日から11月6日が秋土用となり、11月6日が土用明け、すなわち節分になります。

なぜ「辰の日」?

夏の土用では「丑の日」に「う」のつくもの、特に「うなぎ」を食べる習慣があるため、丑の日が近づくとあちこちで「うなぎ」が販売されます。平賀源内の仕掛けたうなぎ効果は令和の時代になっても衰えることがないようです。
夏土用ほどの認知度はないものの土用は他にも春・秋・冬と3回あり、昨年「春土用」の時は「戌の日」に「戌(いぬ)」にちなんで「い」のつく食べ物や「白い」食材を食べると良いことをご紹介しました。
もちろん、秋土用にも同じように「○の日」というのがあり、秋土用の場合は「辰の日」になります。
各土用の「○の日」の干支が違う理由は、干支が年だけでなく月や日や時間にも割り当てられていることがキーとなります。

古代中国では時間や方角を示すのに「十干と十二支」を使って時間や方角を示しており、日本にもその影響が及んでいます。わかりやすいように、月・季節・方角・二十四節気を関連づけた図を作ってみました。

土用は古代中国の陰陽五行説に基づいていて、自然の変化や関係性を木・火・土・金・水の5つの要素に分類する思想です。
四季をこの5つに当てはめると、春は木(青)、夏は火(赤)、秋は金(白)、冬は水(黒)、そして季節の変わり目である「土用」は土(黄)とされます。
また、季節と方位は連動していて、それぞれの方角を守護する四神は季節の色と連動しています。
察しの良い方は、この季節の色が「食べると良い食材の色」に関係しているのに気づかれたのではないでしょうか。

あれ?さっき、春土用は「戌の日」で「白い食べ物が良い」って言っていませんでしたっけ?春は青じゃないの?
それに、夏土用の「丑の日」って、丑は1月の干支だよね?

夏の土用の丑の日が近くなると「土用の丑の日にはうなぎを食べて栄養をつけ、暑い夏に打ち勝とう!」という宣伝文句をよく聞くようになります。
夏土用期間の始まる7月の干支は「未」、その対角線上にあるのは…「丑」ですね!
「丑(うし)」の「う」のつく「黒い」もの、それが「うなぎ」というわけです。
ここでキーワードとなるのが「対角線」。

陰陽五行説には相剋(そうこく)という概念があります。木気は土気に、土気は水気に、水気は火気に、金気は木気に剋(か)ちます。
同様の概念が十二支にもあり、上の十二支図のように対角線上に位置する十二支が対立関係になっており、例えば子(ね)は午(うま)、卯(う)は申(さる)に対立しています。

(中略)

夏の暑い時期である未月を、その対立関係である丑を食べて打ち剋(か)ち元気をつけよう!という意味が土用の丑の日に込められていると考えられます。陰陽五行説に基づくなら未(火気)を丑(水気)で鎮めよう!ということです。

土用の丑の日とは 鰻を食べる理由 牛でOK! – 古文書ネット

これらを踏まえて、秋土用での場合を考えてみましょう。

冬へと季節の変わる「立冬」直前である秋の土用の入りは10月、月の干支は「戌」。対角線上にあるのは「辰」。
秋土用では「対角線上にある干支である辰の日」に「た」のつくものや、「対角線上にある季節の色である青いもの」を食べると季節の変わり目の邪気を「相剋(そうこく)する」ことができるというわけです。
「相剋する」という概念は、酸性にアルカリ性の水溶液を混ぜて「中和する」感じや、儒教で言うところの「中庸」にも似ています。中庸とは孔子に由来する儒教の言葉で「かたよらずに常に変わらない」「過不足なく調和がとれている」などの意味を持っています。
何事もバランスが大事。心と体の健康を保つためにもバランスが大事ということなのです。

「辰の日」におすすめの「た」のつく食材

バランスを整えて心と身体の健康を保つために秋土用の期間におすすめする「た」のつくものといえば、玉ねぎ、大根、タケノコ、たこなどがあげられます。
その土地でできた旬の食材のもつパワーを取り入れることも健康に良いですので、今回は地元北海道で多くとれる食材を中心に紹介しています。ぜひとも皆さんの地元の食材でも「た」のつくものを探してみてください。

玉ねぎ

令和4年の都道府県別のランキングを見ると、実は北海道は玉ねぎの生産量ダントツのトップ。文字通り桁違いの生産量なのだそうです。
土用そばのトッピングとして、他の野菜と一緒にかき揚げなどにしてぜひ食べたい食材です。
相性の良い豚肉と一緒につけつゆにするのもおいしそうです。

たまねぎの生産量の都道府県ランキング(令和4年) | 地域の入れ物

大根

大根の生産量は千葉県に次いで2位でしたが、大根おろしは温冷問わずそばにぴったりの食材ですので、ぜひたっぷりおろして食べたいですね!

大根の生産量の都道府県ランキング(令和4年) | 地域の入れ物

タコ

タコも北海道の漁獲量が他県をぶっちぎって1位です。
そばのトッピングとしては頻繁には見かけない気もしますが、天ぷらにして一緒に食べたい食材です。

たこの漁獲量の都道府県ランキング(令和4年) | 地域の入れ物

その他に北海道で生産量がトップの「た」のつく食材といえば…

大豆

こちらもダントツトップです。
納豆そばやきつねそばなど、そばと合わせる出番も多い食材ですね。

大豆の生産量の都道府県ランキング(令和4年) | 地域の入れ物

タラ

北海道の漁獲量の中で、ホタテ貝、イワシについで多いのがスケトウダラです。
他に単に「タラ」と書いてあるものもあるのですが、そちらは真鱈でしょうか。
どちらにしても道内の漁獲量では、サケやホッケよりも格段に多い魚です。

北海道データブック2023_水産業 – 総合政策部知事室広報広聴課

もちろん、たらの漁獲量は全国1位。

たらの漁獲量の都道府県ランキング(令和4年) | 地域の入れ物

ふんわりした白身は天ぷらにしてそばに合わせるのが最高でしょう。
そして、たらと言えば身の部分だけじゃない。
北海道では「タチ」と呼ばれる白子、そばと合わせるイメージがなかったのですが、岩手県の盛岡市では「たちこ蕎麦」という白子入りそばが名物だそうです。そばっていろいろ合うんですねぇ!

ぷりぷり白子をたっぷりと「たちこ蕎麦」|世界文化社 公式note

「辰の日」におすすめの「青い」魚たち

「た」のつく食材以外では、秋の対極にある春の色「青」に関連する青魚、旬の「サンマ」や「サバ」などが良いとされています。

ここ数年不漁続きで高級魚となってしまい食卓から消えていたサンマですが、どうやら今年は豊漁となっていて久しぶりに食卓に戻ってくるのではというニュースも耳にしました。
サンマの蒲焼きをにしんそば風にしていただくのもいいですね!
サバも缶詰などで利用しやすく、お手軽レシピでどなたでもおいしく食べられて良い食材です。

缶詰の青魚と言えば、オイルサーディンもおすすめ。トマトと合わせて冷製そばにしてもおいしいです。

年々激しさを増す季節の変わり目を乗り切るために

気象庁の予報では、10月にかけて気温が高めに推移し、秋の深まりが遅れる見込みです。
道内は9月の中旬からいきなりガクンと気温の低い日が訪れたりもしていましたが、9月の後半から10月にかけては平年より高い気温になるという予報が出ています。気温の乱高下は体調にも影響しやすいですし、一方、内地では夏の猛暑が9月後半になっても終わらず、体力も削られるばかり。

体調を崩しやすい季節の変わり目である土用の期間に意識的に身体に良い食材を摂るという習慣は「土用の食い養生」といい、日本では昔から続いてきた食習慣であり、先人たちの知恵のひとつなのです。
土用の入りには「土用そば」を食べるのが良いとされていますので、ぜひ「た」のつく食材や「青魚」などのトッピングで心と身体のバランスを整えていただければと思います。

豆知識

前の記事

重陽の節句