『蕎麦の事典』で「ほ・ろ・か・な・い」

そばの長い歴史の中で様々な風習や蘊蓄などが蓄積され、様々な書籍も出版されています。
いくつかの書籍を買い求めて少しずつ読んでみたりしていますが、江戸時代の話などはバックグラウンドの風習などになじみがなかったりするので、多少理解が追いつかないこともあります。また、専門的な話などは本腰を入れて逐一調べながら読む必要があったり、さらには調べても分からないことがあったりしてなかなか骨が折れるので、忙しい時には気楽に手に取れなくなることも多いです。

そんなときに
『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部
という本を見かけました。
内容はそのタイトル通り、そばに関する単語の事典です。(リンク先で「試し読み」ができます)

平易な言葉でそれぞれの語彙に対しての端的な意味が掲載されており、歴史的な語彙であれば簡単な歴史の紹介もされています。
個人的に机の脇に置いておいて、気が向いたときにパラパラとめくって目についた単語を拾い読みするというのが適度な気分転換になってとても良いです。

今回の豆知識は、本の紹介を兼ねて「ほ・ろ・か・な・い」の5文字から始まる語彙を本書からピックアップしてご紹介したいと思います。

「ほろかない」の「ほ」

ほっかいどうそば【北海道蕎麦】

北海道におけるソバ栽培は、記録上では元禄九年(1696)に松前藩が南部藩から取り寄せた種子のなかに「蕎麦三石」とあるのが初見だが、実際はそれ以前に栽培されていた。道北・宗谷管内豊富町の縦穴遺跡(八~十三世紀)からソバが出土しており、当時すでにソバが栽培されていたとみてよい。ただその伝来経路が南ルート(津軽海峡経由)か北ルート(シベリア・樺太経由)かは今後の研究課題である。
アイヌ民族はもともと漁労・狩猟民族だが、若干は農耕も行っており、ソバも作っていた。和人との接触のなかでソバ栽培を習得したとみてよい。元禄以降の栽培記録は、幕府巡見使の報告、蝦夷地探検記、遊歴記などのなかにかなりみられる。現在では全国第一位の産地になっていることは周知のとおりで、平成十年(1998)の場合、全国の約四八%の収量をあげている。(中略)

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

【補足説明】
南部藩とは wikipediaより
盛岡藩(もりおかはん)は、陸奥国北部(明治以降の陸中国および陸奥国東部)、現在の岩手県中部を地盤に青森県東部から秋田県北東部にかけての地域を治めた藩。藩主が南部氏だったため南部藩とも呼ばれる。

「北海道が全国第一位の産地になっていることは周知の通り」ですよね!
そして道内でもその筆頭が幌加内なのもご存じの通り。

「ほろかない」の「ろ」

ロールせいふん【ロール製粉】

金属製の二本のロールをかみ合わせるようにして高速回転(毎分二五〇~三〇〇回転ほど)させ、そのわずかな隙間を通過させることで粉にする製粉方法。
現在は、一番粉から段階的に取り分けできる連続製粉方式が主流である。ロールの目の立て方や回転速度によって、でき上がったそば粉の品質は微妙に変化する。(中略)

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

ロール製粉の関連語彙といえば、やはり石臼ですね。

以前、石臼挽きについての記事も書いていますので、併せてご覧ください。

「石臼挽き」は美味しいの代名詞? | そば処霧立亭

(参考)いしうす【石臼】

石で作られる上臼と下臼のすり合わせによって穀物などを挽く道具。昔は石臼による粉挽き(製粉)が普通で、各家庭でこれを用いた。石は主に花崗岩が選ばれる。
現在は能率の良いロール製品が主流だが、高級そば粉の製粉などでは石臼製粉も行われている。製粉時に生じる熱はそば粉の風味を落とすため、高速回転製粉であるロール製粉に比べ、石臼製粉ではその心配が少ない。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

「ほろかない」の「か」

かんじょうそば【勘定蕎麦】→としこしそば

そばは切れやすいので、旧年の借金を打ち切る意味で大晦日に食べるそばをいった。
必ず残さずに食べなければいけない。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

「か」の項目には、年越し/正月に関係してもう一つ興味深い語彙があったので追加します。

がんじつそば【元日蕎麦】→ついたちそば

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

ついたちそば【朔日そば】→としこしそば

古代の日本では一日の始まりは夕方からと考えられており、新年の行事が大晦日の夜から始まる風習と考え合わせると、除夜の鐘を聞いてから食べる年越しそばは「ついたちそば」または「元日そば」である。
雑俳では寛政七年(1795)の『俳諧けい』に「蕎麦祝ふ国ぶりもあり今朝の春」と詠まれている。いまなお地方の旧家では、元日に若水を汲んだあとそば膳で祝う嘉例が少なくない。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

【補足説明】
国ぶり→ くに‐ぶり【国▽風/国振り】 の解説
1 その国や地方の風俗・習慣。御国振(おくにぶ)り。くにがら。
2 各地方の風俗歌(ふぞくうた)。民謡や俗謡。
3 (漢詩に対し)和歌。こくふう。

【補足説明】
今朝の春→元旦を祝っていう語。また、立春の日の朝。

「ほろかない」の「な」

なまそば【生蕎麦】

そばを包丁切りして、茹でる前の状態のものを生(なま)という。生めんのこと。そば店ではそばを作ることを「生をつくる」ともいう。生(き)そばとは意味が異なる。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

「生蕎麦」の読み方には2種類あるよ!
「なまそば」と「きそば」では全然違う意味になっちゃいますね。

きそば【生蕎麦】

初期のそば切りはそば粉だけで打たれた。これを「生粉(きこ)打ち」ともいう。
元禄二年(1689)版『合類日用料理抄』巻二、「麺類の蕎麦切りの方」の項をみても割り粉(小麦粉)のことはまだ触れていない。そばのつなぎに小麦粉を使うようになったのは、元禄末か享保の後半のころからとみられる。
現在では割り粉の使用は一般的であるが、その割合は店によって差異がある。一般的には二~三割とみられる。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

「ほろかない」の「い」

いちはちにのしさんほうちょう【一鉢二延し三包丁】

手打ちそばの作業の要諦を語呂よく表した言葉。
まず一番大事なのが最初の木鉢の工程、水まわし、もみ方で、ここでそばの良否がほぼ決まってしまう。次にのし方、最後が包丁による切りであり、この過程をふんで修行する。
「一こね 二延ばし 三包丁」「包丁三日、延し三月、木鉢三年」「揉み方三年 切り方三月」などともいう。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

そば打ちはいっぱい練習が必要ですよね!
縁起の良い初夢とされる「一富士 二鷹 三茄子」と似た語感です。
そば打ちの初夢が見られたらすごく上手になれそう♪

知ると楽しい1,155項目

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

収録されている語彙は1,155項目あります。
お正月におせちをつまみにちびちびお酒でものみながら気になる項目を探してみるのも楽しそうですね。

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