
高温気象と幌加内のそば
そば栽培に適した冷涼な気候がゆえに日本一の生産量を誇る幌加内町のそばですが、ここ数年の暑さは日本一のそばにも大きく影響しています。
令和5年(2023年)の幌加内町におけるそば栽培は、歴史的な記録的猛暑による深刻な高温障害に見舞われました。
この年の夏の暑さがソバの開花期と重なったため、受粉不良や実の入りが悪くなり、収量が平年の半分以下にまで激減するなど大きな打撃を受けました。


(そばの高温対策にかかる作期移動による対策-北農研における取り組み―
農研機構北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域 畑作物育種グループ 主席研究員石黒浩二 より)
気候変動の影響は幌加内町のそばにとっても無視できないものになっています。
開花期の高温
そばの生育適温は15〜31℃ですが、特に弱いのが 開花期の高温 です。
といった問題が起こり、収量が大きく落ちます。
農研機構の報告では、 「開花期から10日目までの最低気温が17℃を超えると粒数が急減する 」というデータも示されています。
開花期の高温はそばの結実に直接的な影響を及ぼすため、収量確保には「開花期を高温帯に重ねない」ことが鍵となります。
播種時期は収量に影響
農研機構北海道農業研究センター(石黒浩二氏)の作期移動試験では、早播・標播・晩播・極晩播・夏播の5つの播種時期で収量性が比較されています。

(そばの高温対策にかかる作期移動による対策-北農研における取り組み―
農研機構北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域 畑作物育種グループ 主席研究員石黒浩二 より引用)
その結果、
- 高温年では作期が遅いほど収量が高くなる
- 早播は高温の影響を強く受けて不稔が増える
- 晩播・極晩播は開花期の高温を避けやすい
という傾向が明確に示されています。
そばは開花期の高温に弱いため、早播では高温帯に重なりやすく不稔が増えます。一方、晩播や極晩播では開花期が高温ピークを避けられるため結実率が高まり、高温年ほど収量が安定します。

この結果は、従来の平年ベースの研究(東京農業大学 2014年の試験による研究)とは対照的です。
近年の高温による影響がさほどではなかった2014年の試験段階では、標播の方が開花小花数・百粒重・収量が高く、晩播は収量が下がるとされてきました。

笠島真也*・関口雄太・伊藤博武(東京農業大学生物産業学部)- 第239回日本作物学会講演会 文中の記述を参考に作成
作期移動が高温対策の要
2026年は全町的な暑さ対策として、幌加内町農業技術センターが算出した昨夏の朝晩の気温傾向データを元に播種時期を調整する、新たな試みが始まりました。
きたそらち農協幌加内支所の情報によると、播種開始をこれまでの6月上旬から中旬に遅らせる農家は全体の8~9割になったとのこと。(北海道新聞 2026年6月23日付「ソバ種まき 猛暑避け開花遅く 幌加内、6月中旬が増加」記事プレビューより)
ただ、長期的なデータがない現在のような状態では、いきなり極端に遅くすると変化に対応できない懸念もあるため、現場ではリスクヘッジとして少しずつずらして播種しているという話も聞きます。こういった現場の肌感覚がデータと合わさることでより強い対策になっていくんですね。
2023年のような高温年を経験したことで、「開花期を高温帯に重ねないための作期移動」 は、幌加内のそば栽培において欠かせない対策になりつつあります。
夏の畑に注がれる技術と努力

町内一面に広がる真っ白なそば畑──幌加内を代表する風景です。
「幌加内には二度雪が降る」とも表現される、真っ白な夏の雪。
冷涼な気候や昼夜の寒暖差、日中の気温上昇を穏やかにする朝霧など、そば栽培に適した自然条件に恵まれたことで、作付面積は年々広がり、幌加内は日本一のそば生産地となりました。
気候変動によって夏の高温が増えた今、日本一のそば生産地幌加内町では品質と収量を守るために、様々な技術と努力が注がれています。
秋になって新そばが解禁になった折りには、その背景にある“夏の畑を巡る取り組みの数々”を少し思い出していただけたら嬉しいです。
