ひとまず「新そば祭り」の情報を
今回のお話の前にこれだけはお知らせしておかねばということで。
9月と言えば!
9月2日(土)・3日(日)は、幌加内町新そば祭りが開催されます。
(新そば祭りのポスター画像は、文末に添付しておきます。スクロールしてご確認ください。)
さらに、新そば祭りのタイミングで新そばが解禁されます!
霧立亭は、新そば祭り開催日も通常通り添牛内の店舗で営業いたしております。
9月2日(土)より当店でも新そばを提供いたしますので、ぜひお立寄りください。
モチ性ソバ
さて。
2023年の8月11日(金)、ネットのニュースに「モチ性ソバ」という見慣れないワードをみかけました。
十割そばが簡単に? 世界初、もちもちソバを育種 のどごし香りよし:朝日新聞デジタル
京都大や理化学研究所などのチームが、ソバゲノムを解読して粘り気の強い「モチ性」のソバを世界で初めて開発したというニュースです。
研究グループに参加している総合研究大学院大学のプレスリリースには少し専門的な情報も掲載されていましたので、そちらも併せて引用しつつご紹介します。
モチ性ソバとは、もちもちとした食感を持つ新たなソバの形質です。
【プレスリリース】ソバゲノムの解読 ―高精度ゲノム解読がソバの過去と未来を紡ぐ― | 2023年度 | 国立大学法人 総合研究大学院大学
イネ、ムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエなどの多くの穀類にはモチ性形質が存在しますが、ソバにはこれまで存在しなかったものです。
確かに米にはもち米、麦にはもち麦があり、とてもポピュラーな食材です。
トウモロコシやアワ、ヒエなどにももちタイプがあることは今回初めて知りましたが、それらにモチ性があるのであればそばにあってもおかしくない気もします。
日本の年末年始には、年越し蕎麦を食べ、翌朝には新年の挨拶と共に餅を食べます。
【プレスリリース】ソバゲノムの解読 ―高精度ゲノム解読がソバの過去と未来を紡ぐ― | 2023年度 | 国立大学法人 総合研究大学院大学
蕎麦と餅、これらは両方とも日本人にとって重要な食品でありながら、何故かこれまでのソバ栽培の歴史においてモチ性のソバは見出されていませんでした。
餅が作れるほどのモチ性があるそばができれば、そばだけで「力そば」もできるかも!?
顆粒結合型デンプン合成遺伝子を抑制するとモチ性が顕れる
穀物の実に含まれるでんぷんには、粘り気のもとになるアミロペクチンと、粘り気にならないアミロースがある。
十割そばが簡単に? 世界初、もちもちソバを育種 のどごし香りよし:朝日新聞デジタル
コメやコムギなどでは、アミロースの合成にかかわる酵素をつくる遺伝子が機能しなくなることで、アミロペクチンの割合が増え、モチ性が出てくることが知られている。
お米の例(うるち米ともち米)だと、下記のような成分の割合になるようです。
うるち米デンプン
アミロース約20% | アミロペクチン約80% |
もち米デンプン
– | アミロペクチン100% |
イネなどでは、顆粒結合型デンプン合成遺伝子(Granule bound starch synthase; GBSS)が機能しなくなるとモチ性が顕れることが既知です。
【プレスリリース】ソバゲノムの解読 ―高精度ゲノム解読がソバの過去と未来を紡ぐ― | 2023年度 | 国立大学法人 総合研究大学院大学
(中略)
参照配列を解析した結果、実際にソバのゲノムには5つのGBSSが存在していました。
更に、これら5つのうち2つ(FeGBSS1とFeGBSS2)がソバの種子胚乳、つまり食用となる部分において高いレベルで発現されていることがわかりました。
これらの発見から、FeGBSS1とFeGBSS2の機能を抑制すれば、モチ性ソバを作り出せると考えました。
(中略)
FeGBSS1あるいはFeGBSS2のどちらか一方だけの機能を失った場合にはモチ性は顕れず、それらの遺伝子機能が両方同時に喪失したときに初めてモチ性が顕れることが明らかになりました。
FeGBSS1とFeGBSS2という2つの遺伝子のどちらかが機能していないそば同士を掛け合わせ、変異で両方が機能しないそばを作り出すことでアミロースが生成されない状態になり、結果的にアミロペクチンだけになることでモチ性の高いソバを作ることに成功したとのこと。
これが普及すれば、そば打つ際にも小麦粉のつなぎの代わりに「モチ性ソバ」を使うことで、十割そばのメリットであるそばの香りや味が濃厚なままのそばでありながら、二八そばなどのようななめらかな食感で喉越しが良いそばが容易に作れることになります。
また、そばを米のように炊いただけで米飯と同様に箸でつまんで食べることもできたり、餅、さらには餅からの展開としてのせんべいやあられなども作ることができたそうです。
そば食の可能性が拡がる
ソバとモチ、この2つを組み合わせることで、新たな食文化の発展が期待できると考えられます。
【プレスリリース】ソバゲノムの解読 ―高精度ゲノム解読がソバの過去と未来を紡ぐ― | 2023年度 | 国立大学法人 総合研究大学院大学
具体的には、モチ性がある蕎麦は、麺の歯応えを向上させ、さらに製麺時につなぎの使用を減らす可能性があります。
これにより、十割蕎麦の製造がより容易になると期待できます。
現状のそばで何の問題も無い、十割そばにツルツルとした食感は必要ない、と考える方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、現在のままで良いものが今後なくなってしまうわけではなく、そばにこれまでなかったモチ性を持つものが出てくることでこれまでできなかったことができるようになり、そば食の可能性が拡がることは大いに歓迎できるのではないでしょうか。
これまでそばだけではパサパサとして作ることができなかった製菓などのメニューでは小麦や米をベースに使い、そばで香りを加えたりするものもありますが、やはりそばだけではないため、そばの香りがガツンと出せなかったりするものもあったかと思います。
もし、これをそばだけでつくることができれば、しっかりとそばの香りや味を感じられるメニューが完成するということになります。
京都大の安井康夫助教は「香りと歯応えがありおいしく食べることができた。新たな食文化や産業の創出にもつながる」と話す。5年以内をめどに、企業と連携して実用化を進めたい考えだ。
ソバの全ゲノム解読、もちもちの生地を実現 京都大学 – 日本経済新聞
今後、実用化が進み、日本一のそば生産地である幌加内町から発信できるメニューも増えるといいなとワクワクするニュースでした。