御雛湯って何?

江戸っ子

3月といえば、カラフルな雛蕎麦のシーズンですね!

そこは普通「雛祭りのシーズンですね」と言うんですよ、おそば屋さん(笑)

ところで「雛祭り」ってなんて読みますか?
一般的には「ひなまつり」ですよね。しかし、生粋の江戸っ子的には「しなまつり」。
喫茶店に行って「マスター!コーシーひとつ!」って言っちゃうちゃきちゃきの江戸っ子さんのイメージです。

江戸っ子さんに道を尋ねちゃって「ここをまっつぐいって、しろいみちに出たらしだりへへえったところにみえてくらぁ」な~んて教えられ、「白い道」を一生懸命探しちゃう笑い話もあるとかないとか(笑)

そんな江戸っ子さん特有の「ヒ」と「シ」の区別について、2021年に豊橋技術科学大学機械工学系の吉永司助教と飯田明由教授、国立国語研究所の前川喜久雄教授の研究チームが、関東や東北地方で「東」を「シガシ」、「髭」を「シゲ」などと話す現象を研究し、これまで分からなかった発音のメカニズムを解き明かしたと発表されています。

「ヒ」と「シ」を混同する原因は、発音するときの舌の位置が似ているためだとこれまで言われていたが、同じような舌の位置で、どのようにして「ヒ」と「シ」を区別して発音しているのかは分かっていなかった。

そこで研究チームは東京弁を話す10人に「これがヒシがた」と言ってもらい、その時の舌の動きをリアルタイムMRIで観察。すると、このうち3人は、舌の前後の位置がほとんど同じであったが、「ヒ」と「シ」を発音し分けていることが分かった。

(中略)

この結果、舌の前後の位置が同じでも、舌の左右方向の形状が異なることで「ヒ」と「シ」の子音の違いが生まれることを突き止めた。子音についてこれまで「音声学」では、主に舌の前後方向の位置の違いで分類していたが、左右方向の舌の形状も重要だということが新たな発見で、これが「ヒ」と「シ」の混同の原因にもなり得るという。

江戸っ子が「ヒ」と「シ」の発音を区別できない原因が判明…舌の位置と左右方向の形状が重要だった|FNNプライムオンライン

文中にはスーパーコンピューターでシミュレーションして判明した下の左右方向の違いを示した図版があり、確かに見た目にも結構違って見えます!

御雛湯

のっけから話がそれてしまいましたが、今回は「御雛湯」の話です。
「御雛湯」は「おしなゆ」と読みます。一般的に読むと「おひな」湯ですが、先述のとおり、江戸弁では「おしな」になります。

お雛様の話なのかな?と思いますが、どうやらちょっと違うようで、愛読書『蕎麦の事典』では以下のように書いてありました。

おしな【御雛】
[隠]まだ一人前にならない見習い中の者。見習いが空腹をいやすのに飲むそば湯が「おしな湯」。「雛」を「しな」と発音するのは、江戸っ子の言い方。(東京)

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

なるほど!「雛」はおひな様の雛(ひな)じゃなく、ひな鳥の方の雛(ひな)ってことですね!

おしなゆ【御雛湯】
[隠]そば湯のこと。職人はお茶を飲めるが、まだ修行中のお雛(小僧)はそば湯に辛汁を数滴落として飲むところからきた別称。

『蕎麦の事典』(新島 繁):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部

古いそば屋の隠語で「おしな湯」とは「そば湯」のことでした。

確かにちょっととろみのついたそば湯は小腹の空いたときに飲むとしっかりと満足感があります。
かの有名な『東海道中膝栗毛』でも弥次さん喜多さんが蕎麦を一杯食べたものの食べ足りない。手持ちが心許ないからと「薬を飲むからそば湯をくれ」なんて言ってそば湯をもらい、がぶがぶと飲んで空腹を満たすシーンがあります。(沼津宿を過ぎて吉原宿へ向かう途中の原宿での出来事)

現代語訳

弥次「太い蕎麦だ。食いでがあっていいわい。北八、もう一杯もらおうか」
北八「いやいや、そう一時に銭を使ってはならぬ。又先へ行って、なんぞやらかしやしょう。お湯でもがぶがぶ飲みなせえ」
弥次「そんなら、若え衆、湯を一杯くんな」
蕎麦屋「はい、はい」
弥次「ああ、うめえ、うめえ。北八飲まねえか。おいおい、もう一杯くんな。おっとっと熱つつつつつつ。口を火傷した。あんまり熱いぜ。どうぞ蕎麦をちっとうめてもらいてえもんだ」
北八「これこれ、若え衆、たびたび申し訳ないが、薬を飲むから、もう一杯湯をくんな」
蕎麦屋「はい、はい」
北八「たっぷりくんねえ。おっとよし。しかし、わしが飲む薬は、蕎麦のしたじの入った湯でなきゃきかねえから、いっそのことに若い衆、蕎麦のしたじを、少しさしてくんな。おっと、よしよし」
と鮒が水を飲むようにがぶがぶと飲んで
「さあ。行くとするか」
弥次「でえぶ心が確かになった」
今くひしそばはふじほど山もりにすこしこころもうきしまがはら

【東海道中膝栗毛】後編乾 三島より沼津へ【原文・現代語訳・朗読】
葛飾北斎 「東海道五十三次 絵本駅路鈴 小田原」 今回のエピソードは小田原の話ではないのですが、旅っぽい雰囲気の挿絵をチョイス。

喜多さんも下地(蕎麦につけるだし汁)を入れてくれなんて言ってますが、少しめんつゆを垂らして飲むとまさにカップスープ!小腹も満足できてオススメです!
そば粉があれば簡単にできるので、ぜひ「心確かに」なるそば湯をお楽しみください(´ㅂ`)

そば粉でカンタン!そば湯の作り方

  1. そば猪口かそのくらいのサイズ感のカップにティースプーンで1~3杯のそば粉を入れます。(濃さの好みで量を調整してください)
  2. まずは粉と同量程度の「水」を注いで粉っぽさがなくなるまでよく溶きます。
    お水で先に溶いておくのが最大のポイント!(直接お湯で溶くとダマになっちゃうので注意)
  3. 熱湯を少量ずつ加えながらよく混ぜ、先ほどのねっとりしたそば粉を好みの濃さになるまでゆるめて完成。
  4. めんつゆや出汁、お好みで薬味などを入れていただくと簡単においしいそば湯がいただけます。(もちろん焼酎割りなどにもバッチリです)

豆知識

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